アメリカを震源とする株価低迷、止まらない円安、泥沼化しているウクライナ情勢等から世界中
のスタートアップ・ベンチャー企業が影響を受けています。
しかし、そんな中でも多額の資金調達を実現し成功している企業もあります。
今回は、日本のスタートアップ・ベンチャー企業の資金調達状況と今後の注目業界、そして資金調
達を左右する事業計画書の書き方について解説していきます。
(目次)
- スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達状況
- スタートアップ・ベンチャーにおける今後の注目業界
- 国によるスタートアップ支援策
- スタートアップ・ベンチャー投資家の種類
- 資金調達を成功させる事業計画書の書き方
1.スタートアップ・ベンチャー企業の資金調達状況
株価低迷、インフレ進展、止まらない円安、泥沼化しているウクライナ情勢等、世界的に経済
が混迷する中で、日本のスタートアップ・ベンチャー・新規創業者向け企業の資金調達状況は厳
しい状況となっています。
2022年上期の国内スタートアップ資金調達額は4,160億円で昨年の調達額の約50.6%となって
いて半期だけみると昨年よりも上向きですが、調達社数は半数に達していません。つまり1社あた
りの調達額が大型化している傾向となっています。
世界情勢の影響が徐々に日本の資金調達環境や市場環境にも変化をもたらしてきていて、レイター
ステージ(株式上場も視野に入る成熟段階)のベンチャーも企業評価額の水準が下がってきていて、
IPO直前でとりやめる例も多くなってきています。
投資家によるベンチャー企業の投資可否の選別がより厳しくなってきていると思われます。
そんな中でも、事業環境がよく独自の強み・ノウハウをもっている企業は着々と大型の資金調達を
成功させています。投資ファンドの設立も2019年~2021年にかけては活発だったので、未投資の
運用金額は豊富にあると思われます。(ファンドの投資期間は通常2~3年)
VC等に出資する機関投資家も広がりをみせていて、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金
積立金管理運用独立行政法人)もVCへの投資を増やす動きをみせています。
又、政府も「スタートアップ創出元年」を打ち出していて、スタートアップ・ベンチャーへの投資
環境は揃ってきているといえるでしょう。
独自の強みを持ち事業の採算(収益)性が高い等、事業環境の良い企業はこの逆風の中でも資金調
達のチャンスをつかむ可能性があるといえるでしょう。
2.スタートアップ・ベンチャーにおける今後の注目業界
今後成長を見込めるスタートアップ・ベンチャーのうち、有望とされている業界をあげてみました。
1)IT業界
(1)Web3(ブロックチェーン技術を応用したサービス群)
・NFT(非代替性トークン)、DeFi(分散型金融サービス)、”Play to Earn”(ゲームをする
ことで報酬を得られるサービス)、DAO(ブロックチェーンを応用した自律分散型のビジ
ネス組織) など
(2)サイバーセキュリティ(年率約10%での成長予想)
・コロナ禍でリモートでの仕事や授業が増え、インターネットに接続する機会が増えたこと
で、サイバー攻撃も拡大・複雑化
(3)デジタルマーケティング(Web広告の成長は2022年以降も継続)
・インターネットを利用するすべて(スマホ、PC等)のマーケティングを含む
(4)DX(デジタルトランスフォーメーション)
・IoT(Internet of Things/モノのインターネット)
・AI(Artificial Intelligence/人工知能)
・5G(第5世代移動通信システム)
・クラウド
など
2)EC業界/倉庫・物流業界
2022年以降もECの利用者は増え、生活に身近な日用品や食品といったEC化率が低かった
分野も伸びる予想。EC業界の発展に伴い、倉庫・物流業界もさらに成長するでしょう。
3)ESG(環・社会・企業統治)
ESG投資は、「業績」や「財務状況」など財務情報ではない側面を考慮して投資先を選ぶ
ことを指します。
Environment(環境):二酸化炭素排出量の削減、再生エネルギーの使用 など
Social(社会):職場環境における男女平等、ダイバーシティ など
Governance(ガバナンス):情報開示や法令順守 など
4)モビリティ
自動車による移動や運搬をスムーズに行う
・EV(電気自動車)
・自動運転
・MaaS(Mobility as a Service)
・オンデマンド交通
・ドローン、自動配送ロボット
・空飛ぶクルマ
5)宇宙
わが国をはじめ世界各国ではスタートアップが宇宙分野に参入し、新たな宇宙機器産業や
宇宙利用産業が創出されています。
・宇宙旅行(「Space X」「Blue Origin」)
・通信衛星(「Starlink」:世界中にインターネットを届ける)
・各国自前の観測衛星(「リモートセンシング」:防災、安全保障、農業・漁業、金融、観光
など)
・宇宙空間に「携帯基地局」設置(ネット人口の飛躍的増大)
・民間宇宙船(「Crew Dragon」)
・軍事衛星(アジア太平洋地域は、2021年から2027年の期間において、最も高い成長率を示す
と予想されています)
など
6)医療業界
・ヘルスケア(GAFAも積極的に投資。2022年以降も成長)
・ワクチン関連(新型コロナウイルスのワクチン関連分野)
など
7)農業業界
・「スマート農業」(AIやドローンを駆使)
・「アグリテック」(農業とテクノロジーのを組み合わせ)
日本における労働人口の低下、農業の担い手不足を解決するカギ。
・「D2Cサービス」(EC業界との組み合わせ、生産者と消費者を直接つなげる)
3.国によるスタートアップ支援策
2022年9月22日岸田首相はニューヨーク証券取引所(NYSE)で講演しましたが、そ
の中で日本の5つの優先課題が紹介されました。
①人への投資
・大きな付加価値を生み出す源泉となる人的資本への投資
②イノベーションへの投資
・人工知能(AI)、量子、バイオ、デジタル、脱炭素、スタートアップ 等
③グリーントランスフォーメーション(GX)への投資
・2050年のカーボンニュートラル実現
④資産所得倍増プラン
・個人向け少額投資非課税制度(NISA)の恒久化
⑤世界と共に成長する国づくり
・世界に開かれた貿易・投資立国
2番目のイノベーションへの投資においては、人工知能(AI)、量子、バイオ、デジタル、脱炭
素の分野の研究や開発について国家戦略づくりを進めている中で、特に重視しているがスタート
アップということです。
株の売却益を元手にスタートアップ投資を行う場合の税優遇措置や、ストックオプション(株式
購入権)税制の拡充といった面にも言及しています。
今、新興企業市場は厳しい状況にありますが、そんな時だからこそスタートアップ支援を一層
強化していくということです。
2022年6月:「METI Startup Policies ~経済産業省スタートアップ支援策一覧」公表
2022年8月:スタートアップ企業への支援策を拡充
スタートアップ支援政策を推進する担当大臣設置
(支援策)
・大企業と大規模実証を実施する新興企業にまで、研究開発から支援する政府調達の対象を拡大
・ストックオプションの税優遇を現行の10年からさらに延ばす
・ベンチャーキャピタルと強調し、資金支援する仕組みをつくる
・上場前新興企業への投資を行うファンドへの出資
閉塞感のある日本企業・日本経済を活性化する為にも、スタートアップの活躍を強力に後押しす
ることが、今回の政府支援策の狙いであるといえるでしょう。
4.スタートアップ・ベンチャー投資家の種類、主な違い
資金提供者・形態 |
概要 |
他企業からの出資 |
外部企業との提携、株式一部譲渡など。 |
VC(ベンチャーキャピタル) |
投資会社(金融機関、機関投資家、一般企業、自治体等から資金を集め、ベンチャーに出資して運用する)からの出資。コンサル支援も行う。 |
CVC(コーポレートVC) |
一般企業が自社の資金をベンチャーに投資する際にベンチャーキャピタルを設立してファンドを組み、投資・運用する。運営は外部委託も。 |
エンジェル投資家 |
個人投資家(成功者が多い)による起業家への出資 |
(クラウドファンディング) |
インターネットなどを通じた資金調達 |
5.資金調達を成功させる事業計画書の書き方
スタートアップを支援するいずれの資金提供者も、対象企業に事業開始用資金を提供し財務
体質の改善等を期待するのと同時に対象会社健全育成のうえ、将来的に各種利益(インカムゲ
イン、キャピタルゲイン等)によるリターンを得ることを目的としています。
従って、借り手企業についてはシビアに調査・分析・検討するのは必然といえます。
借り手企業の財務状態や将来性を判断する材料として、決算書やその他の経営状態を確認する
多数の資料に加えて、将来の事業の姿や企業の価値を可視化・文章化したものである「事業計
画書」が大きな役割を果たします。
とくにスタートアップ・ベンチャー企業の事業計画は、過去の実績はありませんので、その事業
目論見が客観的に納得性があり実現性のあるものでなくては、信頼できません。希望的な数字だ
けで作成した場合はすぐにわかりますので、事業計画書全ての項目に対して、裏付け・根拠のあ
るものが求められます。
まさに資金調達の成功は、「実現性のある事業計画書」と経営者のプレゼン能力(熱意、覚悟)
に大きく依存しているといえるでしょう。
<事業計画書の書き方>
事業計画書とは、会社の事業コンセプト・企業戦略・事業内容・組織体制・運営方法・行動計
画・売上や利益等の設定された数値目標などを記載した書類(計画書)のことです。
起業家が起業・開業などで金融機関や投資家から資金調達(融資・出資等)を受ける時や社内に
今後の事業計画を説明・周知する際に利用します。
事業計画書の書き方のポイントは以下のとおりです。
(1)事業計画書の作成目的を明確にする(誰に見てもらい、何を知ってもらうか)
①資金調達(融資・補助金・出資・投資・事業承継等)の為
②自社の事業計画を社内に説明・周知する為
③関連者に事業内容を紹介する為
(2)実現可能な事業計画書を作成する(裏付け・根拠のあるもの)
(3)資金の出し手(金融機関等)側など、相手の立場を考慮する
資金提供側の審査担当者は、社内で決裁を通す為に別途稟議書を書いています。
・稟議書が書きやすいような、説明しやすい事業計画書
・稟議を通したくなる事業内容、経営者(人物)であることをアピール
<事業計画書の項目別記載内容>
提出先・利用目的・記入するフォーマット等で異なりますが、一般的に記載する項目は以下のと
おりです。これらの項目について確認・調査・分析しわかりやすくまとめて準備しなければなり
ません。
(1) エグゼクティブサマリー
ビジネスの概要、目標、主な戦略
(2)会社のプロフィール
・会社概要
・組織構成、事業構成
・沿革/創業の経緯
・どんな強みと特徴を持った会社なのか
(3)経営者のプロフィール(※魅力ある経営者像)
・事業経歴、実績、人間性、特技 ~ 、事業の成功を確信させるような内容
(4)事業コンセプト、ミッション
・会社の使命、ビジョン、ビジネスモデル、提供製品やサービス、競争優位性~
(5)マーケット・取扱いしている商品・サービス・ビジネスモデル・戦略・自社の製品が売れ
る理由・競合する他社の分析~
・誰(ターゲットとする顧客)に何をどんな方法で販売するのか
・マーケティングと販売(営業)戦略、価格や店舗の戦略など
・インターネットによる検索等をうまく活用することも大事です
・ユーザーからの評価
(6)会社の強み・弱み(SWOT分析)
(7)取引先・顧客との関係、ビジネス状況(売上予定の見込が確実か)
(8)役員構成・従業員・組織体制と運営(会社は人が全て)
(9)事業見通し(数値目標)、財務計画、資本政策
・目標となる数値には必ずデータに基づいた根拠があること。特に売上と利益の算定根拠
が客観的に裏付けのある数字であること
・収益予測、費用予測、収支予測、キャッシュフロー予測、税務・会計の課題など、将来
の財務の状況を予測します。
事業の収支をみて、貸したお金が返済されるかどうかの判断に必要とされる為、このセク
ションは投資家や金融機関にとって最も重要で大切な部分であり、リアリスティックで詳
細な予測が求められます。
・経営者が自力で財務を管理できるかどうかも重要です。
・どのように売上を上げていくのか、コスト(原価や費用)はどのくらいかかるのか、設備
などへの投資は必要か等も数値計画を立てる必要があります。
(事実の確認と検証が必須)
・決算書・試算表・資金繰り表・返済予定表等前後3期分くらいを分析
(過去の振り返りで自己の特徴や経営の問題点を把握することが大事)
・売上と利益のバランスが良いこと(特に利益は必ず返済する額より多いこと)
・役員報酬/人件費が妥当であること
・人件費に関するもの以外の経費にムダがないこと
・資金計画は綿密に(返済計画と矛盾しないこと)
・資本政策では、理想的な「株主構成」「資金調達」の実現を目指します。
・できれば5年後のビジョンにも言及
(10)今後の世界情勢分析による事業成功の裏付け
・現在そして今後の世界(事業環境・社会・政治・経済・技術・法律)情勢見通しと、その
中にあってこの事業が成り立ち、成功する確信があることをアピール
・「PESTLE分析」の活用
(11)その他
・多忙な融資(出資)の担当者がすぐに理解し、見やすい形にする(例:A3用紙1ページ)
・極力整理して冗長化を防ぐ
・図やグラフなどを用いてビジュアル的にわかりやすく
※最終的には、経営者の熱意がどう伝わるかにかかわってきます
この事業計画書には決まった書式やフォーマットはありません。基本的には自由に書いて良いと
されていますが、1から全て自分で作るのではなく、プロが作成したフォーマットやテンプレート
を利用することがおすすめです。具体的な書き方やフォーマットがわからないなら、事業計画書
作成をサポートする専門家を紹介してもらい、アドバイスをうけるのも良いでしょう。
ネット上では無料の事業計画フォーマットなどもダウンロードすることが出来ますが、やはりプロ
のコンサルタントが個社に応じたフォーマットで作成する事業計画書に勝るものはありません。
(事業計画書を作成するメリット)
1)自社の今後の方向性を明確なものにし、強み・弱み・課題などを含めて具体的に可視化して
社内共有することができます。
2)会社・経営者の考えが社内統一され、社員は迷うことなく事業を推進できます。
特に幹部社員は当事者意識・責任感が強くなります。
3)事業計画書作成を経験することで、経営者・幹部社員の能力レベル(スキル)がUPします。
事業計画書を作成する為には、以下のことを確認・調査・分析しわかりやすくまとめなけれ
ばなりません。
会社のビジョン/自社の業務内容/自社製品(サービス)の強み、弱み/経営資源(人材)
/顧客/目標/社内体制/各事業の責任者/課題及びその取り組み/具合的な業務計画/
損益計画/返済計画 など
このような作業を通して、経営者・幹部社員ひいては全社員の能力レベル(スキル)がUPし
ます。
4)問題解決力がつきます。
不測の事態・難問が出てきても、事業計画書を上述のように社員全員で理解していれば、裏付け
のある問題解決案が出やすくなります。
<事業計画書作成代行という方法>
事業計画書の作成は経営者自ら行うのが基本ですが、作成作業を短期間に進めていくのは、思った
以上に大変な作業となります。事業計画書の作成はそんなに頻繁にあるものではありませんし、審
査の厳しい資金提供者に対して納得性・説得性のある内容にするには、やはりそれなりの経験・テ
クニックが必要となります。特に新規事業者や中小企業・零細企業にとっては大きな負担になり
ます。
一つの方法として、外部の事業計画書作成の専門家・コンサルタントの活用(作成代行)があり
ますが、そのメリットとしては、以下の通りです。
1)専門的な知識を持っていないオーナーでも、適切で質の高い事業計画書が作成可能
2)自社内では気づきにくい問題点や改善すべき点を指摘してくれる可能性あり
3)事業計画の中立性を保つことにより、客観的な視点を失うことがない
4)市場の動向・最新のトレンドやベストプラクティス(成功の事例)を取り入れることが可能
5)専門的なノウハウやツールを使った分析や調査により、自社内で行うよりも効率的・正確な
情報の収集が可能
6)時間・担当する社内リソースが不足していても、迅速かつ効率的に事業計画書を作成するこ
とができる
7)本来のビジネス(重要な業務)に集中することができる
8)数多くの経験を持つ専門コンサルタントが作成することで、出資者や金融機関などへの強い
アピールを行うことができる
9)作成された事業計画書は、企業の成長を支える一方で内部の意思決定にも役立つ
資金調達を成功に導くような事業計画書の作成には専門的な知識やテクニック等も必要となります。
そのため、実際の業務に見識があり、経験豊富でノウハウのある外部の事業計画書作成の専門家(
コンサルタント)を利用することも、資金調達の早道といえるでしょう。
※事業計画書の書き方及び作成代行を利用するメリットについては、当サイトの
ブログ内に参考となる記事がありますので、以下のページをご参照下さい。
→ 【成長戦略のカギ】事業計画書の書き方と資金調達への活用法
※当バルクアップコンサルティング社は、全員が日本及び世界のトップコンサルティングフ
ァームで経験を積んだトップコンサルタントであり真のプロフェッショナル集団です。
資金調達における事業計画書の作成や事業展開にお悩みの場合は是非一度ご相談下さい。
(事業計画書作成の作成代行サービスについてはこちら)
→ バルクアップコンサルティング社 事業計画書作成サービス
(バルクアップコンサルティング株式会社の紹介)
→ バルクアップコンサルティング株式会社