事業者向けの融資を行っている政策金融機関
創業・事業承継・事業再生の資金調達は事業計画書作成から!
政府系金融機関のうち、日本政策金融公庫は一般の金融機関の融資を補完することを主な目的とする政府系金融機関です。現在、利用企業のほとんどは日本政策金融公庫からの融資とともに銀行等からの融資を受けるケースが多くなっています。
今回はそんな日本政策金融公庫融資の特徴とその際に重要な役割を果たす事業計画書について解説していきます。
目次
1.日本政策金融公庫とは
2.「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の活用
3.事業(創業)計画書の役割
4.まとめ
1.日本政策金融公庫とは
日本政策金融公庫は、「一般の金融機関が行う金融を補完すること」を旨としつつ、
国の中小企業・小規模事業者政策や農林漁業政策等に基づき、法律や予算で決められ
た範囲で金融機能の発揮や各種のサポートを実施している政策金融機関です。
一般の金融機関を補完する機関として機能していますが、事業内容は、以下のとおりです。
1)国民生活事業(国民一般向け業務)
・小口の事業資金融資
・創業支援、事業再生支援、事業承継支援、ソーシャルビジネス支援、海外展開
支援
・国の教育ローン、恩給・共済年金等を担保とする融資
2)農林水産事業(農林水産業者向け業務)
・担い手を育て支える農林水産者向け融資
・食の安全の確保、農食連携を支える加工流通分野向け融資
・コンサルティングやビジネスマッチング等の経営支援サービス
3)中小企業事業(中小企業者向け業務)
・中小企業への長期事業資金の融資
・新事業支援、事業再生支援、事業承継支援、海外展開支援、証券化支援
・信用保証協会が行う債務の保証に係る保険引受等
・経営課題解決支援
(企業診断、SWOT分析、経営に役立つ情報の提供、お客様同士の引合せや紹介等の
ビジネスマッチングサービス等)
※1)~3)によるシナジー効果
・地域経済の活性化支援
・お客様の成長支援
・中小企業のグローバル化支援
4)危機対応円滑化事業
・主務大臣が認定する内外の金融秩序の混乱、大規模災害等の危険発生時におい
て指定金融機関に対し、一定の信用供与を行う業務
・「低炭素投資促進法」等に基づき、指定金融機関に対する貸付け等を行う業務
(出典:日本政策金融公庫「政策金融機関の業務の概要」)
https://www.jfc.go.jp/n/company/summary.html
最近では、コロナ禍で影響を受けた外食産業(飲食店)等の事業者の支援、東日本
大震災などの地震・台風等自然災害からの復旧支援、新規事業創業(開業)による
会社設立や海外展開などの成長戦略分野等への支援にも注力しています。
特に2020年8月から取り扱いを開始した「新型コロナ対策資本性劣後ローン」
は、新型コロナウイルスの感染状況や中小企業者等の資金繰りの状況を踏まえ、令
和3年7月1日(木)から貸付限度額を7.2億円から10億円に引き上げられています。
コロナ禍の影響を受けた中小企業・小規模事業者の財務基盤強化に成果を上げてい
るといえましょう。
2.「新型コロナ対策資本性劣後ローン」の活用
「新型コロナ対策資本性劣後ローン」(正式名称:「新型コロナウィルス感染症
対策挑戦支援資本強化特別貸付」)はあまり知られていない制度ですが、他の複雑
でわかりにくい公的支援制度に比べて、大変わかりやすく借り手の企業にとっても
有利なものとなっています。
この「新型コロナ対策資本性劣後ローン」は、資本的な性格を持った劣後ローンの
ことで、その特徴は以下のとおりです。
(金融機関の資産査定)
金融機関はこの借入については、「負債」ではなく「自己資本」とみなすことが
可能です。借り手にとっては、「資本が増加し、財務状況が改善された」とみなさ
れ自己資本比率の悪化はありません。従って、追加融資等も受けやすくなります。
(返済方法)
元金は最終期限一括の返済となり、最終日までは利息のみの支払いとなります。
従って、資金繰りが安定します。但し、融資後5年間は繰上げ返済ができません。
(利率)
業績によって金利が決定されます。赤字の時は金利負担が小さくなるので、返済計
画が安定します。
(担保・保証人)
無担保・無保証人です。
(償還順位)
法的倒産手続きの開始決定が裁判所によって決定された場合、全ての債務に劣後し
ます。つまり、倒産した場合に貸し手側への返済順位が低いことを意味します。
(「新型コロナウィルス感染症対特別貸付」との併用)
「新型コロナウィルス感染症対特別貸付」(日本政策金融公庫)を融資限度額まで
利用していても、この制度は別枠となっていますので、併用して申請が可能です。
3.事業(創業)計画書の役割
このように、日本政策金融公庫は、新たな事業を始めたり災害や経営環境の変化
に対応する等の資金需要に応えてきている政府系金融機関です。
この日本政策金融公庫の各種融資制度を利用するために欠かせないのが、申込時に
提出する事業計画書(創業する場合は「創業計画書」)になります。
この事業計画書を基に担当者と面談のうえ、融資可否について検討及び判断される
ことになります。
※創業計画書と事業計画書の違い
(事業計画書) | (創業計画書) | |
作成者 | 経営者(既存企業) | 創業者 |
作成目的 | 会社運営上の事業資金調達 | 起業時の事業資金調達 |
計画根拠 | 過去の経営実績
(決算書・試算表等) |
将来見込
(事業目論見) |
審査では、様々な角度から提出された事業(創業)計画を検証しますが、「利息を
つけて返済できる」「将来成長が見込まれ、必ずリターンがある」という評価を受
けることが第一条件となります。つまり、経営を維持向上できる、そして今後大き
く成長が期待できる企業ということです。
事業(創業)計画書は、会社の経営理念・ビジョン・成長性・独自性・事業推進
計画・数値目標(売上/収益見込)・各組織体制/目標などを文章化・可視化した
書類です。
つまり、事業(創業)計画書には未来の事業方向性・業績予測(収益見込)が描か
れています。貸し手となる日本政策金融公庫側としても、貸出金回収とともに日本の
中小企業や創業する企業を育成するという使命があります。まさに資金調達の決め手
は「実現性のある事業計画書」にあるといえるでしょう。
(事業(創業)計画書を作成すると得られること)
1)自社の今後の方向性を明確なものにし、強み・弱み・課題等を含めて客観的に
具体的に可視化して社内共有することができます。
2)会社・経営者の考えが社内統一され、社員は迷うことなく事業を推進できます。
又、社員を雇用する場合にも、会社の方針を明確に伝えることができます。
特に幹部社員を事業計画作成時に参加させることにより、当事者意識・責任感
が強くなります。又、その後の事業遂行時での意欲が違ってきます。
3)事業計画書作成を経験することで、経営者・幹部社員の知識や能力レベル(ス
キル)がUPします。
事業計画書を作成する為には、以下の項目について確認・調査・分析しわか
りやすくまとめて準備しなければなりません。
提出先・利用目的・フォーマット等で異なりますが、一般的な事業計画書の記載
項目(例)と注意点は以下のとおりです。
①エグゼクティブサマリー
事業計画書の全体像を簡潔にまとめたもの。ビジネスの概要、目標、そして達
成のための主要な戦略を明記します。
②会社のプロフィール
・会社概要(会社名、所在地、役員、株主、電話番号、ホームページ~)
・組織構成、事業構成、沿革/創業の経緯、強みと特徴
③経営者のプロフィール(略歴)
・事業経歴、実績、人間性、特技 ~ 、事業の成功を確信させるような内容
※魅力ある経営者像をアピール
④事業コンセプト、ミッション
・会社の使命、ビジョン、ビジネスモデル、提供する製品やサービス、競争優
位性(強み) など
⑤マーケット・取扱商品・サービス・ビジネスモデル・戦略
・事業ドメイン、得意なマーケット・商品・サービスは何か
・市場調査(リサーチ)を綿密に実施したデータの裏付け
・製品/サービスライン:提供する製品やサービスの詳細、開発状況、知的財
産権の保有状況、製品のライフサイクルなど
・自社にしか提供できないような強みやオリジナリティ・売れる理由を強調します
・マーケティングと販売(営業)戦略:ターゲット顧客の定義、製品のポジシ
ョニング、プロモーション戦略、販売戦略、価格戦略、店舗戦略など
・マーケティング戦略(ファイブフォース分析)
競合他社/買い手交渉力/売り手交渉力/新規参入の脅威/代替品の脅威
⑥会社の強み・弱み(SWOT分析)
⑦取引先・顧客(売上予定の見込が確実か)
・対象顧客(取引先)との関係把握(今後の取引が増えるのか減るのか)、
顧客メリット。
⑧役員構成・従業員・組織体制と運営
・経営責任者、意思決定の流れ、役割分担(部署名)のわかる組織図。
・運営体制、役職と職務、必要な経験やスキル(資格の取得)を持った人員、
外部のパートナーやサプライヤーなど、企業の組織構造と運営を詳述します。
⑨事業見通し(数値目標)、財務計画、資本政策
・融資の担当者が重視するポイントは、売上・利益の実現可能性です。説得力
がある根拠を説明することが必要となるため、データの分析や競合優位性な
どを調べて資料を作ることも大切です。
(各数値目標には必ずデータに基づいた根拠があること。特に売上と利益の
金額算定根拠が客観的に裏付けのある数字であること。)
・収益予測、費用予測、利益予測、キャッシュフロー予測など、将来の財務状
況を予測します。
事業の収支をみて、貸したお金が返済されるかどうかの判断に必要とされ
る為、このセクションは投資家や金融機関などのローンを担当する者にとって
最も重要な部分であり、リアリスティックで詳細な予測が求められます。
・経営者が自力で財務を管理できるかどうかも重要です。
・どのように売上を上げていくのか、原価や費用はどのくらいかかるのか、設備
などへの投資は必要かなども数値計画を立てる必要があります。また、数値計
画を立てる際には、各商品や各サービス単位で別けて書くとわかりやすくなります。
・統計データなどは表やグラフ等を添付することでわかりやすい資料となります。
(事実の確認と検証が必須)
→ 決算書・試算表・資金繰り表・返済予定表等は過去・未来予定分含めて前
後3期分くらいを分析・診断します
(過去の振り返りで自己の特徴を把握することが大事)
・売上と利益のバランスが良いこと(特に利益は必ず返済額より多いこと)
・役員報酬/人件費が妥当であること
・人件費以外の経費にムダがないこと
・資金計画は綿密に(返済計画と矛盾しないこと)
・資本政策では、理想的な「株主構成」「資金調達」の実現を目指します。
特に、資金調達は(誰から・何に・どれだけ借りて・どう返済するか)
を明確にします。
・できれば5年後のビジョンにも言及すること
⑩今後の世界情勢分析による事業成功の裏付け
⑪その他
・図やグラフなどを利用してビジュアル的にわかりやすく
・事業計画書のフォーマットは決めておく
(1から全て自分で作るのではなく、資金調達先により適切なフォーマット・
テンプレートや書き方があるので、どのように作成したらよいのかわから
ない場合は、できれば専門のコンサルタントに相談する)
※最終的には、経営者の強い動機と熱意がどう伝わるかにかかわってきます
以上のように、事業計画書では事業概要やビジョン、市場規模や競合他社、サー
ビスや商品、ビジネスモデルや販売戦略、人員計画と財務計画に至るまで、緻密に
書くことが重要です。さらには、その見栄えや出来栄えも非常に大事であるため、
記入するフォーマットの形式にも注意を払わなければなりません。
ネット上では無料の事業計画フォーマットなどもダウンロードすることが出来ますが、
やはりプロのコンサルタントが個社に応じたフォーマットで作成する事業計画書に勝
るものはありません。
事業計画書作成のプロや、そのプロが活用するフォーマットやテンプレートを利用
し、審査する人が一目でわかりやすく理解しやすい事業計画書を作成し、資金調達の
可能性を高めることが事業開始への近道であると言えるでしょう。
以上のような作業を通して、経営者・幹部社員ひいては全社員の能力レベル(スキル)
がUPします。
4)社員に問題解決力がつきます。
不測の事態・難問が出てきても、事業計画書を経営者・幹部をはじめ社員全員で
理解していれば、裏付けのある問題解決案が出やすくなります。
又、解決後は成功の事例として、社内に蓄積することもできます。
5.まとめ
新型コロナ感染拡大・ウクライナ危機等さまざまな社会的背景により経営が厳し
くなった企業や日本の産業の新しい成長分野を切り拓こうとするベンチャー企業の
資金調達方法にはいくつかの方法があります。
今回解説しました、政府系金融機関である日本政策金融公庫からの融資もそのひとつ
です。そして、その資金調達を実現するには、「事業計画書」の内容をいかに充実さ
せるかが最も重要なポイントとなります。
資金提供者を納得させるような「信頼される事業計画書」の作成作業を短期間に進
めていくのは、思った以上に大変な作業となります。当然、複数の人間が携わりま
すので、スケジュール調整も絶えず行う必要があります。又、このような事業計画書
の作成はそんなに頻繁にあるものではありませんし、経験が豊富で完璧に書く自信の
ある人はあまりいないのが実情ではないでしょうか。
そこで、外部の事業計画書作成の専門家(コンサルタント)を活用することも資金
調達の早道といえるでしょう。
作成する時間や社内リソースの不足を補うこともできます。
※事業計画書の書き方及び作成代行を利用するメリットについては、当ブログ内
に参考となる記事がありますので、以下のページをご参照下さい。
→ 【成長戦略のカギ】事業計画書の書き方と資金調達への活用法
※当バルクアップコンサルティング社は、全員が日本及び世界のトップコンサルティ
ングファームで経験を積んだトップコンサルタントであり真のプロフェッショナル
集団です。資金調達における事業計画書の作成や事業展開にお悩みの場合は是非一
度ご相談下さい。
(事業計画書作成の作成代行サービスについてはこちら)
→ バルクアップコンサルティング社 事業計画書作成サービス
(バルクアップコンサルティング社の概要についてはこちら)
→ バルクアップコンサルティング株式会社