事業再生(債務超過改善等)の手段の一つとして「デット・デット・スワップ(Debt Debt Swap=DDS)」があります。
コロナ融資はコロナ感染状況が落ち着きつつある状況の中、2022.9月末で終了しましたが、日本政策金融公庫の資本性劣後ローンについては、2023.3月末まで継続されることになっています。最近は審査が厳しくなっているとも言われていますが、適正な申請であればまだまだ利用できる制度となっています。
今回は、既存の借入金を資本性劣後ローンとして借り換える「DDS」の概要と「デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap=DES)」との違い、そしてその際に重要となる事業計画書作成について解説していきます。
(目次)
1. DDSの概要
2. DDSのメリット、デメリット
3.DDSとDESの違い
4.重要になる事業計画書作成
1.DDSの概要
デット・デット・スワップ(Debt Debt Swap=DDS)は、Debt(債務)とDebt(債務)をSwap(交換)するという意味で、債権(借入金)を別の条件の債権(通常は、一般債権よりも返済順位の低い劣後ローン)に変更する手続きのことです。
劣後ローンは、金融機関(銀行)内では自己資本とみなすことができる為、以前より良い条件での融資(通常よりも金利が低く設定される等)を受けられる可能性があります。
実質的に企業の財務状態を改善して信用力や再建可能性を高めることとなります。
但し、会計上は借入金が資本とはならないので、貸借対照表上に変わりはありません。
(企業側)
・従来の借入金が劣後ローンに変更されるだけで債務(Debt)自体は変わりません。
・一方で劣後化されることで、実質的に債務の返済期限を後回し(一定期間は元本返済が猶予される)にでき、資金繰りが改善される等のメリットがあります。
(金融機関側)
・劣後ローンであれば、将来的に元本回収が可能であり、また一定の要件下において、貸出債権を劣後ローンに変更した場合、金融機関の自己査定における債務者区分等の判断上資本とみなすことができます。
・貸倒引当金を積み増す必要もなくなります
等のメリットがあります。
2.DDSのメリット、デメリット
メリット | デメリット |
低金利となる | 経営者責任が問われる場合も |
毎月の約定弁済がなくなる | 融資契約上の義務や制限がつく |
(劣後ローン(資本性借入金)は5年以上の期日一括返済が要件) | (毎月の試算表提出、2期連続赤字不可、投資額制限など) |
金融機関の債務者区分が上がる効果 |
3.DDSとDESの違い
DDS | DES | |
手法 | 既存の借入金を劣後ローンとして借り換える手法(以前より良い条件での融資に) | 借入金の一部を株式に切り換える手法 |
(元金・利息の返済不要、収益・キャッシュフロー改善) | ||
対金融機関 | 返済条件の劣後化で、実質的に財務状態改善 | 自己資本比率向上、財務体質強化 |
財務諸表上 | 負債のまま | 負債→資本に転換 |
手続面 | 容易 | 煩雑(新株発行、株主説明等) |
対象企業 | 中小企業が多い | 大企業が多い |
※「DES」については、当バルクアップコンサルティング社のサイトでも関連記事を掲載していますので、ご参照下さい。
4.重要になる事業計画書作成
上述のように事業再生手段としてDDSを選択した場合、貸し手である金融機関からすれば、対象企業の過剰債務を解消し財務体質の改善等が期待できると同時に取引会社健全育成の使命に沿うことができます。
DDS実行の為、借り手企業の財務状態や将来性を判断する材料として、決算書やその他の経営状態を確認する多数の書類に加えて、事業計画書が大きな役割を果たします。
事業計画書は客観的に納得性があり実現性のあるものでなくては、信頼に欠けるものになります。特にDDSの場合は既存の貸付の借り換えになりますので、各種経営関連情報は十分に認識されているので、裏付けの無い数字には敏感です。希望的な数字だけで作成した場合はすぐにわかりますので、DDSの審査が通るのは難しくなります。
従って、事業計画書全ての項目に対して、裏付け・根拠のあるものにしておく必要があります。まさにDDS実行の決め手は「実現性のある事業計画書」にあるといえるでしょう。
事業計画書の書き方のポイントは以下のとおりです。
1)事業計画書の作成目的(資金調達/社内周知)を明確にする
2)客観的に実現可能な事業計画書を作成する
3)資金の出し手(金融機関等)側の立場を考慮する(→稟議を通しやすくする)
4)事業計画書の重要な項目
①事業目的・事業コンセプト、ミッション
②会社・経営者のプロフィール(魅力ある経営者像)
③取扱商品・サービス、ビジネスモデル、戦略、会社の強み弱み(SWOT分析)
④取引先・顧客(売上予定の見込が確実か)
⑤役員構成・従業員・組織体制
⑥事業見通し(数値目標)、資本政策
・売上・利益の算定根拠が客観的裏付けのある数字であること
(事実の確認と検証が必須)
→決算書・試算表・資金繰り表・返済予定表等は過去・未来予定分含めて前後3期分くらいを分析する
(過去の振り返りで自社の特徴を把握すること)
・資金調達は、(誰から・何に・どれだけ借りて・どう返済するか)を明確に
⑦事業環境・市場環境・社会・政治・経済情勢(事業成功の裏付け)
・「PESTLE分析」の活用
⑧図やグラフなどを利用してビジュアル的にわかりやすく
当バルクアップコンサルティング社のサイトには事業計画書作成に関する記事も多く掲載されていますので、合わせて参照して下さい。
※最終的には、経営者の熱意がどう伝わるかにかかわってきます
事業計画書の作成は経営者自ら行うのが基本ですが、メリット・デメリットの混在するDDSという特殊な資金調達・財務改善の目的に沿うような事業計画書を作成することは、思った以上に困難な作業となります。
貸し手である金融機関やステークホルダーに対して納得性・説得性のある内容にし、DDS実行にまで進めていくには、やはりそれなりの経験とテクニックが必要となります。そんな時は、外部の事業計画書作成の専門家(コンサルタント)の活用も一つの方法といえるでしょう。