この記事はこんな方におすすめ
- 小売業や製造業など、多くの在庫を抱えるビジネスの経営者の方
- 在庫が原因で資金繰りが悪化しないか不安な方
- 金融機関や投資家への融資・出資を目的とした事業計画書を作成している方
- 事業計画書で自社の在庫管理能力を的確にアピールする方法を知りたい方
はじめに:在庫は「宝」にも「爆弾」にもなる
小売業、卸売業、製造業などを営む経営者にとって、在庫は売上の源泉であり、ビジネスの根幹をなす「宝」です。しかし、その一方で、過剰な在庫はキャッシュフローを圧迫し、保管コストを増大させ、最終的には経営の足かせとなりかねない「爆弾」にもなり得ます。特に、アパレル業界の季節性商品や、食品業界の賞味期限がある商品、電子部品の型落ちリスクなどを考えると、在庫管理の巧拙が企業の命運を分けると言っても過言ではありません。
金融機関や投資家は、事業計画書を見る際に、この「諸刃の剣」である在庫を、企業がどれだけ巧みにコントロールできるかという点に鋭い視線を向けています。本記事では、在庫リスクが高い業種に特化し、資金調達を成功に導くための事業計画書の工夫について、具体的なポイントを解説していきます。
事業計画書における在庫リスク説明の重要性
なぜ、在庫リスクが高い業種では、事業計画書で在庫について特に詳しく説明する必要があるのでしょうか。それは、金融機関や投資家が「在庫」という項目から、単なるモノの数ではなく、企業の経営管理能力そのものを読み取ろうとするからです。
金融機関・投資家が注目する視点
彼らが事業計画書の在庫関連の項目で特に注目するのは、以下の3つのポイントです。
- 事業の健全性:
在庫は適正な水準か?不良在庫(長期間売れ残っている在庫)を抱えすぎていないか? - 管理能力:
需要を予測し、適切な量の仕入れや生産を行う仕組みがあるか?在庫を管理・把握する体制は整っているか? - キャッシュフローへの影響:
在庫の増減が、企業の現金の流れにどのような影響を与えているか?
これらの視点に対し、説得力のある説明ができていない事業計画書は、「この会社はリスク管理ができていないかもしれない」という印象を与えかねません。逆に、在庫リスクを明確に認識し、それに対する具体的な管理策を提示できれば、それは大きな信頼へと繋がります。事業計画書は、自社の在庫管理能力をアピールする絶好の機会なのです。事業計画全体の基本的な構成については、事業計画書の構成とは?資金調達で信頼される書き方とチェックポイントを解説も併せて確認することをおすすめします。
在庫計画でよくある課題とNG例
説得力のある事業計画書を作成するためには、まず「やってはいけない」パターンを知ることが近道です。在庫管理において、多くの中小企業が抱えがちな課題や、事業計画書でのNG例を見ていきましょう。
- 「在庫=資産」という誤解:
貸借対照表(B/S)上、在庫(棚卸資産)は「資産」に分類されます。しかし、「資産だから多ければ多いほど良い」と考えるのは危険な誤解です。売れなければ現金化されず、むしろ保管料や品質劣化のリスクを生む負債にもなり得ます。 - どんぶり勘定の仕入計画:
「なんとなく売れそうだから」「セールで安いから」といった感覚的な理由だけで仕入れを行ってしまうケースです。事業計画書に、需要予測に基づかない曖昧な仕入計画を記載しても、説得力はありません。 - 販売計画と在庫計画の不一致:
売上目標は高く掲げているのに、それを実現するための在庫計画が具体的でない、またはその逆のパターンです。両者は密接に連動している必要があり、一貫性のない計画は信頼性を損ないます。 - 滞留在庫の放置:
長期間売れ残っている在庫について、見て見ぬふりをしてしまうケースです。事業計画書においても、これらの滞留在庫に対する処分計画(セール、廃棄など)がなければ、「問題解決能力が低い」と判断される可能性があります。
これらの課題は、いずれも資金繰りの悪化に直結します。事業計画書でこれらの懸念を払拭し、堅実な経営体制をアピールすることが重要です。
【最重要】在庫リスクを管理する事業計画書の5つのポイント
それでは、金融機関や投資家を納得させる事業計画書には、どのような項目を盛り込むべきでしょうか。ここでは、在庫リスクをコントロールし、それを計画書上で効果的にアピールするための5つの重要ポイントを解説します。
1. 精度と根拠のある「需要予測」
すべての計画の出発点です。「これくらい売れるだろう」という希望的観測ではなく、客観的なデータに基づいた需要予測を示しましょう。
- 過去の実績データ:
過去の月別・商品別の売上データを分析し、傾向を把握する。 - 市場動向・トレンド:
業界全体の市場規模の推移、競合の動向、消費者の嗜好の変化などを盛り込む。 - 季節変動・イベント要因:
アパレルなら季節、食品ならイベント(クリスマス、バレンタイン)など、需要が変動する要因を考慮に入れる。
計画の説得力を高めるためには、事業計画書における「実現可能性」の示し方|根拠ある数字の作り方とはで解説されているような、具体的な根拠を数字で示すことが不可欠です。
2. 需要予測に連動した「仕入・生産計画」
需要予測ができたら、それに連動した具体的な仕入・生産計画を立てます。
- 発注点とリードタイム:
「在庫が何個になったら発注するか(発注点)」、「発注してから納品まで何日かかるか(リードタイム)」を明確にします。これにより、欠品を防ぎつつ、過剰在庫を抑えることができます。 - 適切なロットサイズ:
一度に仕入れる量(ロット)を最適化します。価格の安さだけで大量に仕入れるのではなく、需要予測と保管スペースを考慮して決定します。
3. 具体的な「在庫管理体制」
「どのように在庫を管理しているか」を具体的に示すことで、経営の堅実性をアピールします。
- 定期的な棚卸:
「毎月25日に実地棚卸を実施」など、ルールを明記します。 - ABC分析の導入:
在庫を売上貢献度などからA・B・Cのランクに分け、ランクごとに管理方法を変える手法です。これにより、重要な在庫を重点的に管理していることを示せます。 - 在庫管理システムの利用:
Excelでの管理でも、POSシステムや専門の在庫管理ソフトを利用している場合でも、その旨を記載し、正確な在庫把握に努めている姿勢をアピールします。
在庫管理体制のチェックリスト例
| チェック項目 | 具体的な取り組み |
|---|---|
| 在庫データの正確性 | □ 毎週末に実地棚卸とデータ照合を実施 |
| 管理手法 | □ ABC分析を導入し、Aランク品は毎日在庫を確認 |
| 責任者の配置 | □ 在庫管理の責任者として〇〇を配置 |
| 管理ツール | □ POSシステムと連携した在庫管理ソフトを利用 |
4. 出口戦略としての「滞留在庫対策」
どれだけ計画を緻密に立てても、必ず売れ残る在庫は発生します。重要なのは、その「出口戦略」をあらかじめ計画しておくことです。
- 評価損の計上ルール:
「仕入後6ヶ月経過した商品は、評価額を50%下げる」など、会計上のルールを明確にします。 - 処分計画:
「滞留期間3ヶ月で値下げセール」「6ヶ月でアウトレットチャネルへ」「1年で廃棄」など、具体的な処分フローを定めておきます。これにより、損失を最小限に抑え、経営判断の速さを示すことができます。
5. 「財務計画」への正確な反映
これら1〜4の計画を、最終的に財務計画(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)に落とし込みます。在庫の動きは、財務3表とは?PL・BS・CFの基礎と事業計画書への活かし方をわかりやすく解説、特にキャッシュフローへの影響を明確に示すことが極めて重要です。
- 貸借対照表(B/S): 適正な「棚卸資産」額を計上する。
- 損益計算書(P/L):
「売上原価」を正確に算出し、必要に応じて「商品評価損」を計上する。 - キャッシュフロー(C/F)計算書:
「棚卸資産の増減額」が、現金の動きにどう影響するかを示します。在庫が増えれば手元の現金は減り、在庫が減れば現金は増える、という関係性を明確にすることが、金融機関からの信頼を得る鍵となります。金融機関が見ているポイントは?事業計画書で融資審査を突破するコツの記事でより詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 適正な在庫水準はどのように計算すれば良いですか?
A. 一つの指標として「在庫回転期間」があります。これは「棚卸資産 ÷ 平均月商」で計算され、商品が何ヶ月分の売上に相当するかを示します。業種によって適正値は大きく異なりますが、自社の過去のデータと比較したり、業界平均を参考にしたりして、目標とする回転期間を設定し、事業計画書に記載すると良いでしょう。
Q2. 赤字の状態で、在庫削減計画をどう説明すれば良いですか?
A. 赤字の状況であっても、その原因を分析し、具体的な改善策を示すことが重要です。例えば、「過剰在庫による保管コストと廃棄損が赤字の主因」と分析した上で、「ABC分析の導入と不採算商品の仕入停止により、在庫を〇%削減し、来期には黒字転換を目指す」といった、課題認識と行動計画をセットで示すことで、将来性をアピールできます。
Q3. 小さな会社でも在庫管理システムは導入すべきですか?
A. 必ずしも高価なシステムは必要ありません。まずはExcelで在庫リストを作成し、入出庫を記録することから始めるだけでも、管理レベルは大きく向上します。事業計画書では、会社の規模に応じた現実的な管理方法を実践していることを示すのが大切です。近年は、中小企業向けの安価なクラウド型在庫管理サービスも増えています。
専門家への相談も有効な選択肢
ここまで解説してきたように、在庫リスクを考慮した事業計画書の作成には、財務や経営管理に関する専門的な知識が求められます。自社だけで作成するのが難しいと感じる場合や、より客観的な視点を取り入れたい場合には、外部の専門家に相談するのも有効な手段です。
資金調達やM&Aを支援するコンサルティング会社の中には、事業計画書の作成を専門的にサポートするところも存在します。例えば、バルクアップコンサルティング株式会社のように、中小ベンチャー企業に特化し、財務とビジネスの両面から事業計画書の策定を支援するサービスを提供している企業もあります。同社は年間260社の事業計画書作成実績があり、豊富な知見に基づいたアドバイスが期待できます。
まとめ:在庫管理を制するものが経営を制す
在庫リスクが高い業種にとって、在庫管理は単なる業務の一つではなく、経営そのものです。そして、事業計画書は、その経営管理能力を金融機関や投資家に伝え、信頼を勝ち取るための重要なコミュニケーションツールと言えます。
本記事で紹介したポイントを参考に、自社の在庫管理体制を見直し、それを説得力のある形で事業計画書に落とし込んでみてください。それは、資金調達の成功だけでなく、企業の持続的な成長への確かな一歩となるはずです。
在庫管理を含めた事業計画の見直しや、専門家への相談を検討している方は、以下のサービス詳細もご覧ください。
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執筆者:佐藤 宏樹(BulkUp Group, CEO)
バルクアップグループ3社の経営を担う、バルクアップコンサルティング株式会社 代表取締役社長。京都大学MBA。2013年に日本公認会計士試験および米国公認会計士試験(USCPA)に合格。三菱UFJ銀行にて法人営業を経験した後、PwCの事業再生アドバイザリーチームにて不採算事業の再建・資金繰り改善支援に従事。その後、独立。現在は事業計画書作成支援・資金調達アドバイス・小規模M&AのFA・DD業務などを手掛け、財務・法務・ITを横断したハンズオン支援を提供している。25以上の金融機関と連携。

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