この記事はこんな方におすすめ
- 会社を設立したばかりで、日本政策金融公庫などから融資を受けたいと考えている経営者の方
- 売上実績がまだないため、事業計画書の「売上予測」の書き方に悩んでいる方
- 金融機関が計画書のどこを評価するのか、具体的なポイントを知りたい方
- 自己流で作成するのに限界を感じ、専門家の視点も取り入れたいと思っている方
サマリー動画(約90秒)
約90秒の動画でこの記事のポイントを解説します。
創業初年度の資金調達、その成否を分ける事業計画書とは
創業期は、事業を軌道に乗せるための運転資金や設備投資など、何かと資金が必要になる時期です。しかし、多くの創業者にとって最初の壁となるのが、金融機関からの融資審査。特に、まだ事業の実績がない初年度においては、「この会社に融資をしても本当に大丈夫か?」という金融機関の不安を払拭し、信頼を勝ち取ることが不可欠です。
その信頼を勝ち取るための最も重要なツールが「事業計画書」です。
「事業を成功させたい」という情熱や熱意はもちろん大切ですが、それだけでは融資担当者を説得することはできません。金融機関が求めているのは、「その事業が将来的に収益を生み出し、きちんと返済できるか」を客観的な事実や論理的な根拠をもって示すことです。
この記事では、売上実績がゼロの創業初年度でも、金融機関から「この事業なら将来性がある」と評価される事業計画書の書き方と、審査を突破するための重要なポイントを、初心者にも分かりやすく解説します。まずは全体像を掴むため、事業計画書の構成とは?資金調達を成功に導く書き方とチェックリストから読み進めるのも良いでしょう。
売上実績ゼロから「信頼される売上予測」を作るアプローチ
創業者が最も頭を悩ませるのが「売上予測」です。実績がないため、希望的観測や願望になりがちですが、それでは説得力がありません。重要なのは、「なぜこの売上目標が達成可能だと言えるのか」を、第三者が納得できる形で示すことです。
マーケットサイズと「売れる根拠」となる仮説
売上予測は、単に「月商100万円を目指します」と書くだけでは不十分です。その数字に至るまでの計算過程、つまり「売上の公式」を明確にする必要があります。
売上の公式(例)
- 飲食店の場合: 客単価 × 座席数 × 回転率 × 営業日数
- Webサービスの場合: サイト訪問者数 × コンバージョン率 × 顧客単価
- 小売店の場合: 1日の平均来店客数 × 購入率 × 平均購入単価
これらの要素を、客観的なデータに基づいて設定していくことが重要です。
| 項目 | データの収集方法・考え方の例 |
|---|---|
| 客単価 | 競合店のメニュー価格や、自社が提供する商品の価格帯から設定 |
| 来店客数・利用者数 | 店舗の立地の人流データ、商圏内のターゲット人口、Web広告の想定クリック数などから算出 |
| 購入率・回転率 | 業界の平均値や、類似するビジネスモデルの事例を参考にする |
| 営業日数 | 自社の営業計画に基づいて設定 |
これらのデータを用いて、「市場全体の大きさ(マーケットサイズ)」を示し、その中で「自社がどれくらいのシェアを獲得できるのか」という仮説を立てて説明します。楽観的、標準的、悲観的の3つのシナリオを提示できると、リスク管理能力もアピールでき、より説得力が増します。売上予測の根拠をより深く理解したい方は、事業計画書における「実現可能性」の示し方|根拠ある数字の作り方とはも参考になります。
プロダクト・サービスの具体性と独自性
「何を売るのか」が具体的でなければ、売上予測の信頼性も揺らぎます。自社の提供する商品やサービスが、「誰の」「どのような課題を」「どのように解決するのか」を明確に記述しましょう。
特に重要なのが「競合との差別化」です。
- なぜ、顧客は競合ではなく自社のサービスを選ぶのか?
- 価格、品質、機能、サポート体制など、どこに優位性があるのか?
これらの点を具体的に説明することで、事業の独自性と成功の可能性をアピールできます。例えば、「高品質な素材を使っている」だけでなく、「〇〇産の希少な素材を使用しており、近隣の競合店では提供されていないため、健康志向の30代女性に強く支持される」といったレベルまで具体化することが求められます。
金融機関はここを見る!融資審査で評価される3つのポイント
金融機関、特に日本政策金融公庫などの政府系金融機関は、創業融資において独自の視点で事業計画を評価します。計画の数字だけでなく、その背景にある「事業をやり遂げる力」を見ているのです。
1. 自己資金の額と準備期間
「自己資金がどれだけあるか」は、融資審査において非常に重要な指標です。一般的に、融資希望額の3分の1から半分程度の自己資金を用意することが望ましいとされています。
なぜ自己資金が重要なのでしょうか。それは、「この事業のために、どれだけの準備と覚悟をもって臨んでいるか」という本気度を示すバロメーターになるからです。コツコツと貯めてきたお金は、事業に対する熱意の客観的な証拠と見なされます。また、自己資金が潤沢であれば、当面の運転資金にも余裕が生まれ、事業の安定性が高まると評価されます。
2. 代表者の経歴と事業の関連性
金融機関は、「なぜ、あなたがこの事業を成功させられるのか?」という点も厳しく見ています。事業計画に書かれた内容がいくら素晴らしくても、実行する本人にその能力がなければ「絵に描いた餅」だと判断されてしまいます。
- これまでの職務経歴: 計画している事業と同じ業界での経験は、強力なアピールポイントになります。
- 保有資格やスキル: 事業に関連する専門資格や技術は、専門性の高さを証明します。
- 人脈やネットワーク: 仕入先や販売先とのつながりも、事業の安定性を示す材料となります。
自身の経歴を棚卸しし、これから始める事業とどう結びつくのかを、ストーリーとして語れるように準備しておくことが重要です。この点は、創業融資における事業計画書の重要性|審査官はここを見ているでさらに詳しく解説されています。
3. 資金使途の明確さと返済計画の妥当性
「借りたお金を何に使い、どうやって返していくのか」を明確にすることも不可欠です。
- 資金使途: 店舗の改装費、設備の購入費、商品の仕入費、当面の運転資金(人件費や家賃など)といったように、具体的な項目と金額をリストアップします。見積書などがあれば、添付すると信頼性が増します。
- 返済計画: 作成した売上予測と経費計画から「税引後利益+減価償却費」を算出し、その中から無理なく返済できる金額かどうかを示します。計画に余裕がないと、「少し売上が落ち込んだだけですぐに返済が滞るのではないか」と懸念されてしまいます。
よくある質問(FAQ)
Q:初年度の売上目標は、高く設定した方がよいのでしょうか?
A:必ずしもそうではありません。重要なのは、目標の高さよりも「なぜその売上目標が達成可能だと言えるのか」という客観的な根拠です。希望的観測で立てた高い目標よりも、市場規模や競合の状況などから論理的に積み上げた、実現可能な数値を設定することが金融機関からの信頼につながります。
Q:どんなに良い計画書でも、融資を断られることはありますか?
A:はい、あり得ます。事業計画書の内容だけでなく、面談での受け答えの印象、自己資金の状況、代表者個人の信用情報なども総合的に判断されます。計画書は融資審査における最重要書類の一つですが、それだけで全てが決まるわけではないと理解しておきましょう。
Q:日本政策金融公庫の創業融資で、特に重視されるポイントは何ですか?
A:特に「自己資金」と「事業経験」が重視される傾向にあります。創業のためにどれだけ真剣に準備をしてきたか(自己資金)、そしてその事業を遂行できるだけの経験やスキルがあるか(事業経験)が、計画の実現可能性を裏付ける重要な証拠と見なされるからです。詳しくは日本政策金融公庫に提出する事業計画書の書き方【審査通過のコツを徹底解説】もご覧ください。
専門家の視点を活用するという選択肢
ここまで解説してきたように、創業期の事業計画書作成には、客観的なデータ収集と論理的なストーリー構築が求められます。しかし、日々の創業準備に追われる中で、一人ですべてを完璧にこなすのは簡単なことではありません。
そのような場合、資金調達や事業計画の専門家のサポートを受けるのも一つの有効な手段です。
例えば、M&Aや資金調達のコンサルティングを行う企業の中には、事業計画書の作成を専門的に支援している会社もあります。バルクアップコンサルティング株式会社もその一つで、年間260社以上の事業計画書作成支援実績を持っています。同社のような専門家集団は、公認会計士やMBA保有者などが在籍し、財務とビジネスの両方の視点から、金融機関が納得するような客観的根拠に基づいた計画策定をサポートしています。
第三者の専門的な視点を取り入れることで、自分では気づかなかった計画の穴や、より説得力を高めるための改善点が見つかることも少なくありません。
まとめ
創業初年度の融資を成功させるためには、情熱だけでなく、客観的な根拠に基づいた「信頼される事業計画書」が不可欠です。
- 売上実績がないからこそ、市場データに基づいた論理的な売上予測を示す
- 自己資金や事業経験を通じて、計画の実現可能性と事業への本気度をアピールする
- 資金使途を明確にし、無理のない返済計画を立てる
これらのポイントを押さえることで、金融機関の信頼を勝ち取り、事業をスタートさせるための貴重な資金を得る可能性が大きく高まります。
事業計画書は、一度作って終わりではありません。それは、あなたの事業の成功に向けた「羅針盤」となります。ぜひ本記事を参考に、あなたのビジネスの第一歩となる、説得力のある事業計画書を作成してください。もし専門家のサポートが必要だと感じた場合は、外部サービスの活用を検討してみるのも良いでしょう。
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執筆者:佐藤 宏樹(BulkUp Group, CEO)
バルクアップグループ3社の経営を担う、バルクアップコンサルティング株式会社 代表取締役社長。京都大学MBA。2013年に日本公認会計士試験および米国公認会計士試験(USCPA)に合格。三菱UFJ銀行にて法人営業を経験した後、PwCの事業再生アドバイザリーチームにて不採算事業の再建・資金繰り改善支援に従事。その後、独立。現在は事業計画書作成支援・資金調達アドバイス・小規模M&AのFA・DD業務などを手掛け、財務・法務・ITを横断したハンズオン支援を提供している。25以上の金融機関と連携。

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