小売業・飲食業向け|複数店舗展開時の事業計画書の作り方
この記事はこんな方におすすめ
- 小売業や飲食業を経営し、2店舗目以降の出店を具体的に検討している方
- 複数店舗展開のための資金調達で、金融機関に提出する事業計画書の書き方に悩んでいる方
- 1店舗目の成功体験を、どのように「再現性のある計画」として伝えれば良いか分からない方
- 事業拡大に向けて、客観的で説得力のある事業計画書を作成したいと考えている方
サマリー動画(約90秒)
約90秒の動画でこの記事のポイントを解説します。
1店舗目の成功から、次なるステージへ
1店舗目のお店の経営が軌道に乗り、多くのお客様に愛されるようになった。これは経営者にとって、何よりの喜びでしょう。その成功体験を自信に、「このビジネスモデルをもっと広げたい」「2店舗、3店舗と展開して事業を大きくしたい」と考えるのは自然な流れです。
しかし、2店舗目以降の展開は、1店舗目の創業時とは異なる種類の難しさがあります。特に大きな壁となるのが「資金調達」です。金融機関は、1店舗目の成功が「偶然」や「経営者個人の頑張り」によるものではないか、冷静に見ています。
求められるのは、「成功の再現性」を客観的なデータと論理的な計画で示すこと。本記事では、小売業・飲食業の経営者が複数店舗展開を目指す際に、金融機関を納得させ、資金調達を成功に導くための事業計画書の作り方を、具体的なポイントと共に解説します。
多店舗展開に必要な視点とは
金融機関が複数店舗展開の計画を見る際に最も重視するのは、「1店舗目の成功を、別の場所・別のスタッフでも再現できるか?」という点です。事業計画書では、この「再現性」をいかに証明するかが鍵となります。
成功モデルの再現性
なぜ1店舗目のお店は成功したのでしょうか?「立地が良かったから」「自分の腕が良かったから」だけでは、融資担当者を説得できません。成功の要因を具体的に分解し、誰が店長になっても高いレベルを維持できる「仕組み」として提示する必要があります。
成功要因の分解と標準化の例
- コンセプト: どんな顧客層に、どのような価値を提供しているのか?
- 商品・メニュー: 主力商品は何か? なぜそれが支持されるのか?原価管理や品質管理の方法は?
- オペレーション: 調理、接客、レジ締め、清掃など、日々の業務フローは標準化されているか?(マニュアルの有無)
- マーケティング: 新規顧客をどう集め、リピーターになってもらっているのか?
これらの要素を言語化・マニュアル化し、「この仕組みさえあれば、別の場所でも成功できる」という論理的なストーリーを構築することが重要です。
人材採用と育成体制
複数店舗展開で必ず直面するのが「人」の問題です。「2号店の店長は誰がやるのか?」という問いに、明確に答えられなければなりません。
計画書に盛り込むべき人材計画
- 店長候補の確保: 現在のスタッフから店長候補を育成するのか、外部から採用するのか。具体的な人物像や育成計画を示しましょう。
- 採用計画: 新店舗に必要なスタッフ(正社員・アルバイト)の人数と採用方法、採用スケジュールを明記します。
- 研修制度: オペレーションマニュアルを用いた研修プログラムなど、新人を即戦力化するための具体的な育成体制を示すことで、計画の実現性が高まります。
「人がいないから出店できない」という事態を避けるため、事業拡大と連動した人材戦略が不可欠です。
金融機関が見るリスクと対策
金融機関は、リターンだけでなくリスクも厳しく評価します。特に多店舗展開は投資額が大きくなるため、失敗したときの影響も甚大です。計画書では、想定されるリスクを事前に洗い出し、その対策を具体的に示すことで、堅実な経営姿勢をアピールできます。
回収期間と利益率の分析
「儲かるだろう」という感覚的な説明ではなく、具体的な数字で収益計画を示すことが絶対条件です。
- 初期投資(イニシャルコスト): 物件取得費、内外装工事費、厨房機器・什器備品費、運転資金など、新店舗の開店に必要な費用を詳細に見積もります。
- 売上予測: 「席数 × 回転数 × 客単価 × 営業日数」といった具体的な計算式で、希望的観測ではない現実的な売上を予測します。商圏人口や競合店の状況、既存店のデータなどを根拠として示しましょう。
- 損益分岐点: 新店舗が赤字にならないために、最低限必要な売上高はいくらかを計算し、その達成可能性を説明します。
- 投資回収期間: 初期投資を何年で回収できる見込みかを示します。この期間が短ければ短いほど、投資効率の良い事業だと評価されます。
これらの詳細な財務計画を示すには、損益計算書(PL)やキャッシュフロー計算書(CF)の作成が不可欠です。より詳しい財務諸表の活かし方については、財務3表とは?PL・BS・CFの基礎と事業計画書への活かし方をわかりやすく解説も参考にしてください。
事業計画書に落とし込む構成例
これまで解説した「再現性」「人材」「財務」の3つの視点を、具体的な事業計画書に落とし込んでいきましょう。どのような構成で伝えれば、金融機関に評価されやすいのでしょうか。基本的な構成については、「事業計画書の構成とは?資金調達を成功に導く書き方とチェックリスト」で詳しく説明していますが、多店舗展開では特に以下の点が重要になります。
| 構成項目 | 記載すべき内容のポイント |
|---|---|
| 1. 企業概要 | 既存店のこれまでの実績(売上・利益の推移)、成功要因の分析を簡潔にまとめる。 |
| 2. 新規事業(多店舗展開)の目的 | なぜ今、多店舗展開するのか。市場の機会、顧客からの要望、経営者のビジョンなどを明確にする。 |
| 3. 新店舗のコンセプト・概要 | 出店場所、店舗の規模、ターゲット顧客、既存店との差別化・共通点などを具体的に示す。 |
| 4. 成功モデルの再現性 | 1店舗目の成功要因を分解し、どのように標準化・マニュアル化して新店舗で再現するかを説明する。 |
| 5. 人材計画 | 店長候補の実名や経歴、スタッフの採用・育成計画、組織図などを提示する。 |
| 6. マーケティング計画 | 新店舗のオープン前後で、どのように集客し、地域に定着させていくかの具体的な戦術を示す。 |
| 7. 財務計画 | 必要資金額とその使途、詳細な収支計画(3〜5年分)、資金繰り計画、投資回収計画を数字で示す。 |
| 8. 中期的なビジョン | 今回の出店を皮切りに、将来的に何店舗まで拡大したいのか、どのような企業を目指すのかを語る。 |
フェーズ分けとKPI設計
「5年で10店舗出店します」といった漠然とした目標だけでは、計画の具体性に欠けます。事業計画をいくつかのフェーズ(段階)に分け、それぞれのフェーズで達成すべき具体的な数値目標(KPI)を設定することが有効です。
- フェーズ1(〜1年後): 2号店の出店と黒字化
- KPI例: 売上高〇〇円、営業利益率〇〇%、損益分岐点達成時期、リピート率〇〇%
- フェーズ2(〜3年後): 3〜5号店のエリア内展開
- KPI例: エリア内シェア〇〇%、全社売上高〇〇円、人材育成システム確立
- フェーズ3(〜5年後): 新エリアへの進出、新業態の開発
- KPI例: 新規出店エリアの選定、M&Aも視野に入れた成長戦略
このように段階的な計画と客観的な指標を示すことで、経営者が冷静に事業を分析し、着実に成長を目指している姿勢が伝わります。長期的な成長戦略の描き方については、「成長戦略を魅せる!事業計画書の「中期ビジョン」セクションの作り方」が役立つでしょう。
FAQ(よくある質問)
Q1: 既存店が一時的に赤字なのですが、複数店舗展開の融資は不可能ですか?
A: 必ずしも不可能ではありません。赤字の理由が、将来のための先行投資(人材採用強化やシステム導入など)であることが明確に説明でき、新店舗の出店によって全社的に黒字化できるという説得力のある計画を示せれば、可能性はあります。既存店の課題と改善策も併せて提示することが重要です。
Q2: 新規出店にあたり、自己資金はどれくらい準備すれば良いですか?
A: ケースバイケースですが、一般的には事業に必要な総投資額の2〜3割程度が目安とされています。自己資金の額は、事業に対する経営者の本気度やリスク負担能力を示す重要な指標と見なされます。利用できる融資制度は多岐にわたるため、「日本政策金融公庫に提出する事業計画書の書き方【審査通過のコツを徹底解説】」などを参考に、自社に合った制度を探してみるのも良いでしょう。
Q3: 売上予測の説得力のある根拠は、どうやって示せばいいですか?
A: 既存店の「坪当たり売上」や「従業員一人当たり売上」などの実績データを基に、新店舗のスペック(面積、席数など)を掛け合わせて予測を作成するのが基本です。さらに、出店候補地の商圏調査データ(昼間人口、夜間人口、世帯年収など)や、競合店の状況分析を加え、「なぜこの場所で、この売上が見込めるのか」を多角的に説明することで、計画の信頼性が格段に高まります。
専門家への相談も有効な選択肢に
ここまで見てきたように、複数店舗展開を成功させるための事業計画書は、1店舗目の創業時よりもはるかに緻密な分析と論理的な説明が求められます。日々の店舗運営で忙しい経営者が、これらすべてを一人で完璧に準備するのは簡単なことではありません。
もし、「客観的な視点で計画をブラッシュアップしたい」「金融機関が納得する資料の作り方がわからない」と感じるなら、資金調達や事業計画の専門家の力を借りることも有効な選択肢です。
M&Aや資金調達を支援するコンサルティング会社の中には、事業計画書の作成を専門的にサポートするところもあります。例えば、バルクアップコンサルティング株式会社は、年間260社もの事業計画書作成を支援している実績豊富な企業です。同社には財務とビジネスの両面に精通した専門家が在籍しており、金融機関の視点を踏まえた、説得力の高い事業計画書の作成を支援しています。
まとめ
小売業・飲食業における複数店舗展開の成否は、事業計画書の質にかかっていると言っても過言ではありません。その核心は、「①成功の再現性」「②それを支える人材」「③客観的な数字に裏付けられた財務計画」の3つを、いかに具体的に示せるかにあります。
事業計画書は、単に資金を借りるための書類ではありません。自社の強みと弱みを再分析し、事業の未来を描くための設計図であり、経営者のビジョンを関係者に伝えるための最も重要なコミュニケーションツールです。
この記事が、あなたの会社の次なる成長ステージへの扉を開く一助となれば幸いです。もし専門家の客観的な視点が必要だと感じたら、信頼できるパートナーを探してみてはいかがでしょうか。
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執筆者:佐藤 宏樹(BulkUp Group, CEO)
バルクアップグループ3社の経営を担う、バルクアップコンサルティング株式会社 代表取締役社長。京都大学MBA。2013年に日本公認会計士試験および米国公認会計士試験(USCPA)に合格。三菱UFJ銀行にて法人営業を経験した後、PwCの事業再生アドバイザリーチームにて不採算事業の再建・資金繰り改善支援に従事。その後、独立。現在は事業計画書作成支援・資金調達アドバイス・小規模M&AのFA・DD業務などを手掛け、財務・法務・ITを横断したハンズオン支援を提供している。25以上の金融機関と連携。

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