中小企業のコスト構造改革と事業計画書|収益改善のストーリー設計法
この記事はこんな方におすすめ
- 原材料費や人件費の高騰で、利益が圧迫されていると感じる経営者の方
- コスト削減に取り組みたいが、何から手をつければ良いか分からない方
- コスト削減計画を金融機関に説明し、融資や支援を得たいと考えている方
- どんぶり勘定から脱却し、データに基づいた強い経営体質を築きたい方
サマリー動画(約90秒)
約90秒の動画でこの記事のポイントを解説します。
なぜ今、コスト構造の見直しが重要なのか?
「売上は伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない…」
多くの中小企業経営者が、このような悩みを抱えています。原材料費の高騰、人手不足による人件費の上昇、そして激化する市場競争。こうした厳しい外部環境の中で企業が生き残り、成長を続けるためには、「売上を伸ばす」ことと同じくらい、「コスト構造を最適化する」ことが重要です。
どんぶり勘定で経営を続けていては、どこに問題があるのか、どこに改善の余地があるのかを見つけることはできません。コスト構造改革は、単なる経費削減ではなく、自社の経営体質を見直し、筋肉質で収益性の高い企業へと生まれ変わるための重要な経営戦略です。
この記事では、中小企業が取り組むべきコスト構造の見直し方を基本から解説し、それを金融機関や投資家が納得するような「収益改善のストーリー」として事業計画書に落とし込む方法を、具体的にご紹介します。
コスト構造を「見える化」する基本のアプローチ
コスト構造改革の第一歩は、自社のコストが「何に」「どれくらい」かかっているのかを正確に把握する「見える化」から始まります。まずは会社の経費を大きく2つの種類に分けてみましょう。
固定費と変動費に分解する
会社のコストは、売上の増減に関わらず一定にかかる「固定費」と、売上の増減に比例して変動する「変動費」に分けられます。
- 固定費: 売上がゼロでも発生する費用。
- 例:事務所の家賃、正社員の人件費、減価償却費、リース料、借入金の利息など
- 変動費: 売上が増えれば増え、減れば減る費用。
- 例:原材料費、仕入原価、販売手数料、外注費、残業代など
なぜこの分解が重要なのでしょうか。それは、利益を増やすための打ち手が変わってくるからです。固定費が高いビジネスモデルなら、売上を伸ばすことで利益率が大きく改善します。一方、変動費が高い場合は、一つ一つの取引の利益(限界利益)を高める工夫が必要になります。まずは自社の費用を分解し、どちらの比率が高いのかを分析することが重要です。この作業は、会社の財務状況を正確に把握する上で欠かせない財務3表とは?PL・BS・CFの基礎と事業計画書への活かし方をわかりやすく解説の理解にも繋がります。
【コストの分類例】
| 費用の種類 | 勘定科目(例) |
|---|---|
| 固定費 | 地代家賃、給料手当、福利厚生費、減価償却費、支払利息 |
| 変動費 | 売上原価(仕入・材料費)、外注費、販売手数料、荷造運賃 |
損益分岐点(BEP)を計算する
コストを固定費と変動費に分けたら、次に行いたいのが「損益分岐点」の計算です。損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになり、利益がゼロになる売上高のことです。これより売上が高ければ黒字、低ければ赤字ということになります。
簡単な計算式は以下の通りです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
この損益分岐点を把握することで、「あといくら売上が必要か」「コストをどれくらい削減すれば利益が出るか」といった具体的な目標設定が可能になります。コスト削減によって固定費が下がれば、その分損益分岐点も下がり、利益が出やすい体質になるのです。
収益改善に直結するコスト削減の具体策
コスト構造を「見える化」できたら、いよいよ具体的な削減策の検討です。「聖域なき見直し」を基本姿勢とし、あらゆるコストにメスを入れていきましょう。
固定費削減のポイント
固定費は一度削減できると、その効果が継続するのが大きなメリットです。
- オフィスコストの見直し
- 賃料の交渉・移転:
長年同じ場所であれば、周辺相場を元に賃料の減額交渉を試みる価値はあります。リモートワークの導入が進んだなら、より小さなオフィスへの移転も有効です。 - ペーパーレス化の推進:
会議資料や契約書をデジタル化することで、コピー用紙代、インク代、印刷機のリース代、書類の保管スペースといったコストをまとめて削減できます。
- 賃料の交渉・移転:
- 人件費の最適化
これは単なるリストラを意味するものではありません。ITツール導入による業務自動化で残業代を削減したり、一部業務を外部の専門家にアウトソーシングしたりすることで、社員をより付加価値の高いコア業務に集中させることができます。 - その他固定費の見直し
- 通信費・光熱費:
契約プランが自社の利用状況に合っているか、定期的に見直しましょう。電力・ガスの自由化により、より安い会社に切り替えることも可能です。 - 保険料:
事業用の各種保険について、補償内容が過剰でないか、複数の保険会社から相見積もりを取るなどして見直します。 - サブスクリプション:
利用頻度の低いソフトウェアやサービスがないか確認し、不要なものは解約しましょう。
- 通信費・光熱費:
変動費削減のポイント
変動費は日々の業務と密接に関わっているため、現場の協力が不可欠です。
- 仕入・外注費の見直し
- 相見積もりの徹底:
複数の業者から見積もりを取ることを習慣化し、常に最適な価格での調達を目指します。 - 発注方法の工夫:
発注ロットをまとめることで単価交渉を有利に進めたり、逆に過剰在庫を防ぐために発注頻度を見直したりします。 - 内製化の検討:
外注している業務の一部を社内で行うことで、コストを削減できる場合があります。
- 相見積もりの徹底:
- 製造原価の低減(製造業の場合)
- 歩留まりの改善:
製造工程でのロスや不良品の発生率を下げることが、直接的な材料費の削減に繋がります。 - 代替素材の検討:
品質を維持したまま、より安価な材料に切り替えられないか検討します。
- 歩留まりの改善:
コスト改革を「事業計画書」で魅力的に伝えるストーリー設計
コスト削減策を実行する際には、その取り組みを「事業計画書」にまとめ、社内外の関係者に説明する場面が出てきます。特に、金融機関から融資を受ける際には、この計画書の出来栄えが審査を大きく左右します。
重要なのは、単なるコスト削減策のリストを提示するのではなく、「コスト改革を通じて企業がどのように成長していくのか」という前向きなストーリーを語ることです。
ビフォーアフターを明確に示す
まず、現状のコスト構造がどのような課題を抱えているのか(Before)を客観的な数字で示します。その上で、今回の改革によってコスト構造がどう変わり、収益性がどれだけ改善するのか(After)を具体的な目標数値で示しましょう。
- 改革前の課題: 売上高利益率5%、損益分岐点比率95%
- 改革後の目標:
固定費を年間500万円削減し、売上高利益率を8%に、損益分岐点比率を85%に改善する。
このように数値で示すことで、計画の説得力が格段に増します。
削減したコストの「再投資計画」を語る
金融機関が最も知りたいのは、「コスト削減が未来の成長にどう繋がるのか」という点です。削減によって生み出された資金(キャッシュフロー)を、ただ内部に留保するのではなく、企業の成長のためにどう「再投資」するのかを明確に示しましょう。これが金融機関が見ているポイントは?事業計画書で融資審査を突破するコツをクリアする鍵となります。
- 例1:
削減した年間500万円を、Webマーケティング費用に投下し、新規顧客を〇〇人獲得する。 - 例2:
浮いた資金を元手に、新商品の開発に着手し、2年後に市場投入を目指す。 - 例3:
DXツールを導入し、さらなる業務効率化と生産性向上を実現する。
コスト削減を「守り」の施策から、「攻め」の投資への第一歩と位置づけることで、計画全体がポジティブで将来性のあるものとして評価されます。
実現可能性を裏付ける
どんなに立派なストーリーを描いても、それが「絵に描いた餅」だと思われては意味がありません。計画の実現可能性を具体的なアクションプランで裏付けましょう。
- 誰が: 担当部署、責任者
- いつまでに: 具体的なスケジュール、中間目標
- 何をするか: 実行する施策リスト
- どう測るか: 進捗を確認するためのKPI(重要業績評価指標)
こうした具体的な計画を示すことで、経営者の本気度が伝わります。より説得力のある計画を作成するためには、事業計画書における「実現可能性」の示し方|根拠ある数字の作り方とはで解説されているような、根拠に基づいた数値計画の立て方を参考にすると良いでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:コスト削減をすると、社員のやる気が下がってしまいませんか?
A1:やり方によっては、そのリスクはあります。重要なのは、一方的に経費削減を押し付けるのではなく、「会社の成長のために、無駄をなくして生まれた利益を新しい投資や社員に還元する」というポジティブなメッセージを伝えることです。業務効率化など、社員の負担を減らす形でのコスト削減は、むしろモチベーション向上に繋がります。
Q2:正直、何から手をつけていいのか分かりません。
A2:まずは本記事で紹介した「コストの見える化」から始めてみてください。固定費と変動費に分け、それぞれの金額を把握するだけでも、自社の課題が見えてくるはずです。最初はインパクトの大きい家賃や人件費、仕入費などから分析し、その後、通信費や消耗品費など、着手しやすい項目から見直していくのが良いでしょう。
Q3:金融機関は、コスト削減だけの計画を評価してくれますか?
A3:コスト削減そのものは評価されますが、それだけでは不十分です。金融機関が見ているのは、その会社の「将来性」と「返済能力」です。コスト削減によって収益体質を改善し、そこで生み出した資金をどう成長投資に繋げるのか、という前向きなストーリーを示すことが不可欠です。
専門家の活用も選択肢の一つ
自社だけで客観的にコスト構造を分析したり、金融機関を納得させられる事業計画書を作成したりするのは、簡単なことではありません。時には、外部の専門家の視点を取り入れることが、改革を成功に導く近道となる場合があります。
例えば、M&Aや資金調達の専門家集団であるバルクアップコンサルティング株式会社は、中小企業の財務課題解決に特化したサービスを提供しています。同社には公認会計士やMBA保有者など、財務とビジネスの両面に精通したコンサルタントが多数在籍しており、企業の現状分析から具体的なコスト削減策の提案、さらには事業計画書の構成とは?資金調達を成功に導く書き方とチェックリストに基づいた説得力のある資料作成まで、一貫したサポートを行っているのが特徴です。
まとめ:コスト改革は未来を創るための第一歩
コスト構造改革は、目先の利益を確保するための消極的な活動ではありません。会社の無駄をなくし、筋肉質な経営体質を築き、未来の成長に向けた投資原資を生み出すための、極めて戦略的で前向きな活動です。
自社のコスト構造を正しく「見える化」し、削減策と成長戦略を連動させた説得力のあるストーリーを事業計画書に落とし込むことで、金融機関や従業員といったステークホルダーの理解と協力を得やすくなります。
厳しい経営環境を乗り越え、持続的な成長を遂げるために、まずは自社のコスト構造改革から始めてみてはいかがでしょうか。専門的な知見が必要な場合は、外部の専門家への相談も有効な選択肢です。
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執筆者:佐藤 宏樹(BulkUp Group, CEO)
バルクアップグループ3社の経営を担う、バルクアップコンサルティング株式会社 代表取締役社長。京都大学MBA。2013年に日本公認会計士試験および米国公認会計士試験(USCPA)に合格。三菱UFJ銀行にて法人営業を経験した後、PwCの事業再生アドバイザリーチームにて不採算事業の再建・資金繰り改善支援に従事。その後、独立。現在は事業計画書作成支援・資金調達アドバイス・小規模M&AのFA・DD業務などを手掛け、財務・法務・ITを横断したハンズオン支援を提供している。25以上の金融機関と連携。

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