補助金を抱えた会社のM&A ― DDで見落とされがちな「処分制限」という論点

M&A DD Insights Case 007

補助金を抱えた会社のM&A ― DDで見落とされがちな「処分制限」という論点

補助金の二面性 ―「資産」であると同時に「制約」でもある

補助金を受給している会社を買収するとき、DDでは「補助金を受けている」という事実の確認に意識が向きがちです。しかし価格と実行可否を左右するのは、その補助金に紐づく制約のほうにあります。補助金は既に入金済みの資金であると同時に、買収後の資産処分や事業運営を縛る制約でもある。この二面性を、存在確認の一行で通り過ぎてしまうと、後になって買い手自身が痛手を負うことになります。

事業再構築補助金と「処分制限期間」

代表的なのが事業再構築補助金です。この制度では補助対象資産に「処分制限期間」が設けられており、この期間中に資産を譲渡・廃棄・目的外使用するには、原則として事務局の事前承認が必要とされます。実務上、特に注意すべきなのは、承認が「これから必要」な状態ではなく、承認を得ないまま既に処分に該当する行為が行われている状態です。

「これから承認が必要」と「既に処分済み」の違い

なぜ後者が重いのか。承認がこれから必要なだけなら、クロージング前に取得を進めればよく、取得できなければ条件を見直す、または見送るという判断もクロージング前に行うことができます。ところが既に処分済みであれば、事後的な回復は困難です。

事業譲渡という形式の裏に隠れる処分

見落としやすいのが、事業譲渡という形式の裏に処分が隠れているケースです。補助対象資産そのものを売却したわけでなくても、補助対象資産を含む店舗や事業を一体として譲渡していれば、実質的に処分に該当し得ます。

DDで押さえる確認の勘所

だからこそ確認の勘所は、補助対象資産が具体的に何で、いくらで取得され、現在どこで何に使われているか、処分制限期間はいつ満了するか、そして資産の処分について承認が取られているかどうか、という一連の事実に置かれます。ここを押さえて初めて、処分の実態が輪郭を持ちます。あわせて、株式譲渡によるオーナーチェンジそのものも、交付要件や各種変更届・報告の要否を個別に確認しておく必要があります。株主が変われば必ず承認が要る、というほど単純ではありませんが、要件に触れないかは見ておくべき論点です。

リスクの構造 ― 金銭で済むものと、済まないもの

リスクの構造を正しく理解することも欠かせません。手続に不備があれば、まず補助金の返還や加算金といった金銭的負担が生じます。ただ、実務上より厄介なのは、金銭では回復しにくいダメージのほうです。将来の補助金申請に支障が生じる、同一交付決定下にある他店舗・他事業へ問題が波及する――こうした影響は、対象会社の問題であったはずが、買い手である自社の今後の補助金活用や信用面にまで及びかねません。

対応の設計思想 ―「買わない」という選択肢

この構造を踏まえると、対応の設計思想は自ずと定まります。返還や加算金は、価格調整・表明保証・補償といった手当てで一定程度まで吸収できます。しかし将来の補助金活用や信用面への波及は、金銭では取り返せない。だとすれば、解消の見込みが立たない論点を無理に条件へ作り込むのではなく、「買わない」という判断を正面から選択肢に置くことが、むしろ健全な意思決定になります。取り返せないものを引き受けないという規律です。

まとめ

補助金は、資産であると同時に制約でもある。財務・法務・税務のどの領域からも一様には見えにくく、それぞれのDDを横断して初めて全体像が結ばれる論点です。存在の確認で満足せず、処分制限という一段深いレイヤーまで確認して初めて、買収後に引き受けるリスクの輪郭が見えてきます。

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