撤退事業の「塩漬け資産」が、買収後にコベナンツを呼び覚ますとき

─ 財務・法務横断のDDが買主を守る ─

M&Aのクロージング後、買主が会計実務として減損処理を進めた瞬間、借入金の期限の利益喪失事由が形式的に成立する──。中小企業のM&Aでは、こうした「地雷」が撤退済事業に紐づく塩漬け資産に潜んでいることがあります。決算書や単発の財務DDのみでは異常値として検出されにくく、買収後に初めて顕在化するタイプのリスクです。

撤退事業の塩漬け資産とは

具体的には、販売先を失った在庫、撤退時に貸し付けたまま回収サイクルが止まった資金、取引先の破綻により回収不能となった債権・株式、営業権の未償却残高(繰延資産)などが該当します。いずれも事業撤退時に減損・除却処理が行われず、簿価のまま据え置かれているケースが多く見られます。中小企業会計では税理士の判断で「とりあえず簿価据置」となりがちで、決算書上は健全な数値が並びます。

財務DDで検出されるもの

財務DDでは、修正純資産の毀損が検出されます。ある案件では、これら撤退事業関連資産の合計約90百万円強を回収不能・資産性なしと評価した結果、修正純資産は会計上の約1億円弱から実質債務超過近くまで圧縮されました。EBITDAや表面的な自己資本比率からは到底想像できない実態が、撤退事業の処理を通じて初めて立ち上がってきます。

法務DDで検出されるもの

同時に、法務DDでは当該会社の借入契約に「純資産が直近年度の75%を下回らないこと」という財務制限条項(コベナンツ)が検出されました。財務DDで導いた実態純資産はこの水準を大幅に下回ります。つまり、買主がクロージング後に正常な会計処理として減損を行った瞬間、期限の利益喪失事由が形式的に成立し、金融機関から一括返済請求を受けるリスクが現実化しかねない構造です。買収対価の議論とは別次元で、資金繰りの地雷が埋まっていることになります。

横断的に見て初めて立体化するリスク

ここで強調したいのは、このリスクは財務DDと法務DDを横断して初めて立体化する点です。財務側だけでは「資産性なし」の判定で完結し、法務側だけでは契約条項の抽出で完結する。両者を突き合わせて初めて、減損処理→純資産毀損→コベナンツ抵触→一括返済請求という連鎖が見えてきます。

DDを財務・税務・法務・労務と縦割りで個別の専門家に委託する従来型の進め方では、こうした連鎖型リスクは検出が遅れがちです。論点が顕在化するのは、契約書や決算書の中ではなく、専門領域の境界線上だからです。