DDで「青天井リスク」が浮上したとき|株式譲渡から事業譲渡へのスキーム転換が実質的なリスクヘッジになる

株式譲渡スキームで検討を進めてきた案件で、DDの結果として上限が確定しない「青天井リスク」が浮上した場合、価格調整や表明保証保険では対処しきれない局面が生じる。このまま株式譲渡で進めると、買主は法人格ごとリスクを承継し、損害額の上限を事前に把握できない状態で取得することになる。

定量化できないリスクは、価格調整では解決しない

DDで浮上するリスクには、金額が確定するものと確定しないものがある。税務否認額や未払残業代債務、係争中の労災・ハラスメント案件などは、対象期間・対象者が確定するまで総額が見えない。リスク額が定量化できている場合は、価格調整や表明保証保険が有効な対処手段となる。しかし損害額の上限が確定しない青天井リスクに対しては、これらの手段だけでは十分に対応しきれないケースがある。株式譲渡では法人格ごと過去の債務を引き継ぐ構造上、リスクの総量を事前に把握できないまま買収を完了することになる。

事業譲渡への転換で「必要なビジネス機能だけ」を切り出す

こうした局面で有効なのが、事業譲渡へのスキーム転換である。事業譲渡では、引き継ぐ資産・契約・従業員を個別に選択できる。過去の潜在債務を売主に残置したまま、必要なビジネス機能のみを取得することが可能となる。株式譲渡から事業譲渡への発想の転換が、買主にとって実質的なリスクヘッジになる。

実例:IT系B社(EV10億円)での事業譲渡転換

IT系B社(EV:10億円)のDDにおいて、未払残業代請求の兆候が確認された。対象期間・人数が未確定で、総額は数千万円から1億円超に及ぶ可能性があり、定量化不能な状況だった。スキームを事業譲渡に転換し、現役従業員・主要顧客契約・システム資産のみを個別承継することで、過去債務リスクを売主帰属として処理し、クロージングを完遂した。

事業譲渡の制約と、転換を検討すべきタイミング

事業譲渡にはコストと制約が伴う。取引先契約の個別再締結、許認可の再取得が必要となり、従業員の転籍には全員の個別同意が求められる。また資産譲渡として消費税が課税される点も考慮が必要である。これらのコストを踏まえてもなお、青天井リスクを回避できる構造的メリットが上回るかどうかが判断軸となる。

スキーム転換の検討はDDの完了を待つ必要はない。青天井リスクの兆候が見えた段階で早期に選択肢として検討に載せることが肝要であり、早いほど売主・関係者との交渉余地が広がる。FA・DDの専門家と連携し、実行可能性を見極めた上での判断が求められる局面である。

このようなスキーム転換の判断は、DDの進捗と並走して行う必要があり、開示資料だけでは判断できない論点を含む。判断を誤れば、想定外のリスクを引き受ける可能性がある局面である。