この記事はこんな方におすすめ
- シリーズAの資金調達を目前に控えているスタートアップ経営者の方
- ベンチャーキャピタル(VC)が評価する事業計画書の書き方が知りたい方
- 事業の成長性や将来性を、説得力をもって伝えたいと考えている方
- 作成した事業計画書が、投資家の期待水準に達しているか不安な方
はじめに:シリーズAは「未来への設計図」が試されるステージ
プロダクトやサービスが生まれ、初期の顧客も獲得できた。いわゆるPMF(プロダクトマーケットフィット)の兆しが見え始めたスタートアップにとって、次の大きな挑戦が「シリーズA」の資金調達です。このステージは、単なるアイデアや情熱だけでなく、「事業を本格的に成長させるための具体的な戦略と実現可能性」が厳しく問われます。
その試金石となるのが、ベンチャーキャピタル(VC)に提示する事業計画書です。これは、自社の事業価値を証明し、調達した資金でいかにして企業を成長させるかという「未来への設計図」に他なりません。シード期のように熱意だけで乗り切ることは難しく、客観的なデータと論理に基づいた説得力のあるストーリーが不可欠です。
この記事では、シリーズAの資金調達を成功に導くために、VCが本当に見ているポイントと、彼らを味方につける事業計画書の構成要素、そして具体的な書き方を、初心者にも分かりやすく解説します。
事業計画書に求められる背景・前提
シリーズAの資金調達は、シードラウンドまでとはVCが評価する視点が大きく異なります。なぜこの段階の事業計画書がそれほど重要視されるのでしょうか。
なぜこのテーマが重要なのか
シリーズAは、スタートアップが「実験フェーズ」から「本格的な成長フェーズ」へと移行する重要な転換点です。この段階でVCが知りたいのは、「その事業に再現性はあるか?」「投資した資金で本当にスケールするのか?」という点に集約されます。
もし事業計画書の内容が曖昧で、成長への道筋が具体的に描けていなければ、VCは「このチームに数百〜数億円という大金を託すのはリスクが高い」と判断するでしょう。逆に、緻密で説得力のある計画書は、VCとの対話を円滑に進め、より良い条件での資金調達を実現するための強力な武器となります。基本的な構成については事業計画書の構成とは?資金調達を成功に導く書き方とチェックリストの記事でも詳しく解説しています。
金融機関・投資家が注目する視点
VCは事業計画書を通じて、主に以下の3つの視点から事業の将来性を評価しています。
- 市場の魅力(Market):
- ターゲットとする市場は十分に大きいか?(TAM/SAM/SOM)
- 市場は今後も成長が見込めるか?
- なぜ「今」この事業に参入するべきなのか?
- 事業の優位性(Product/Traction):
- 顧客のどんな「深い課題」を解決しているのか?
- 競合と比べて何が優れているのか?(独自の技術、ビジネスモデルなど)
- これまでの実績(トラクション)はどうか?(売上、ユーザー数、継続率など)
- チームの実力(Team):
- この壮大な計画を実行できる経営チームか?
- 専門性や過去の実績は十分か?
- 事業に対する強い情熱とコミットメントはあるか?
これらの視点を押さえ、論理的かつ情熱的に語れるかが、資金調達の成否を分けるのです。
資金調達を成功させるための事業計画書構成
VCを納得させる事業計画書には、盛り込むべき必須の項目があります。ここでは、シリーズAで特に重要となる構成要素と、それぞれのポイントを解説します。どうすれば投資家が『読みたくなる』事業計画書の作り方|プレゼンにも効く実践テクニックになるかを意識しましょう。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 1. エグゼクティブサマリー | 【最重要】事業の全てを1〜2ページに凝縮。 VCはまずここを読んで、続きを読むかを判断します。課題、解決策、市場、チーム、希望調達額などを簡潔にまとめる必要があります。 |
| 2. 経営陣・チーム紹介 | 「誰がやるのか」は「何をやるのか」と同じくらい重要。 各メンバーの経歴やスキルが、この事業を成功させる上でどう活かされるのかを具体的に示し、チームとしての強さをアピールします。 |
| 3. 課題とソリューション | 顧客が抱える「根深い課題」と、それをどう解決するのかを明確に。 課題の解像度が高いほど、ソリューションの説得力が増します。なぜ既存のサービスではダメなのかを論理的に説明しましょう。 |
| 4. プロダクト・サービス概要 | 技術的な詳細よりも「顧客にとっての価値」を分かりやすく説明。 デモやスクリーンショットなどを活用し、直感的にプロダクトの魅力を伝えます。 |
| 5. 市場規模とターゲット顧客 | 客観的なデータを用いて市場の大きさと成長性を示します。 TAM(獲得可能な最大市場規模)、SAM(サービスがアプローチ可能な市場規模)、SOM(実際に獲得を目指す市場規模)を算出し、現実的な目標を提示します。 |
| 6. トラクション(実績) | シリーズAで最も重視される項目の一つ。 これまでの実績を具体的なKPI(重要業績評価指標)で示します。MRR(月次経常収益)、顧客数、成長率、LTV/CAC比率など、ビジネスモデルに合った指標で成長を証明します。 |
| 7. ビジネスモデル | 「誰から」「何を」「どのように」収益を上げるのかを具体的に記述。 サブスクリプション、手数料、広告モデルなど、収益化の仕組みと価格設定の根拠を明確にします。 |
| 8. 成長戦略 | 調達した資金で、どのように顧客を獲得し、事業をスケールさせるのか。 具体的なマーケティング戦略、セールス戦略、採用計画などを詳細に記述します。 |
| 9. 競合分析と差別化要因 | 競合の強み・弱みを分析し、自社の「独自の強み(Unfair Advantage)」を明確に。 「競合はいない」という主張はNG。市場を正しく理解していることを示します。 |
| 10. 財務計画 | 今後3〜5年間の収益、費用、利益計画を策定。 PL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー計算書)の3点セットが基本です。予測の「根拠」を明確にすることが何よりも重要です。詳しくは財務3表とは?PL・BS・CFの基礎と事業計画書への活かし方をわかりやすく解説を参考にしてください。 |
| 11. 資金調達計画 | 希望調達額と、その具体的な資金使途を明記。 「運転資金」といった曖昧な表現ではなく、「エンジニア採用費」「マーケティング広告費」など、項目ごとにブレークダウンして示します。 |
記載時の注意点とNG例
内容が良くても、伝わらなければ意味がありません。ここでは、VCからの評価を下げてしまう可能性のある書き方と、その改善のヒントを紹介します。
伝わりにくい書き方のパターン(NG例)
- 根拠のない数字の羅列:「市場規模は1兆円」「3年後に売上100億円」といった数字に、算出根拠や達成までのロジックが示されていない。
- 過度な専門用語の使用:業界や社内でしか通用しない専門用語や略語が多く、読み手の理解を妨げている。
- 競合の軽視:「我々のサービスに競合は存在しない」と断言し、客観的な市場分析ができていない印象を与える。
- ストーリー性の欠如:各項目がバラバラで、全体として「なぜこの事業が成功するのか」という一貫したストーリーになっていない。
- 資金使途の曖昧さ:調達したい金額は大きいのに、その使い道が「事業拡大のため」などと具体性に欠ける。
改善のヒント
- 全ての数字に根拠を示す:なぜその売上予測になるのか、具体的なアクションプランとKPIをセットで説明しましょう。売上や費用の事業計画書における「実現可能性」の示し方|根拠ある数字の作り方とはが、計画全体の信頼性を左右します。
- 第三者の視点で推敲する:専門知識のない友人や家族に読んでもらい、分かりにくい部分がないかフィードバックをもらうのも有効です。
- ビジュアルを効果的に使う:グラフや図を適切に用いることで、複雑な情報も直感的に伝えることができます。
- 強みと同時にリスクも開示する:事業リスクや課題を正直に認め、それに対してどう向き合い、対策を講じるかを示すことで、逆に誠実で信頼できる経営チームであるとの印象を与えられます。
FAQ(よくある質問)
Q1. 事業計画書は何ページくらいが適切ですか?
A. 一概には言えませんが、エグゼクティブサマリーを含め、全体で15〜25ページ程度に収めるのが一般的です。重要なのはページ数よりも、内容が簡潔で分かりやすいこと。詳細なデータは、必要に応じて補足資料(APPENDIX)として添付しましょう。
Q2. 財務計画はどのくらいの期間で作成すれば良いですか?
A. シリーズAの段階では、最低でも今後3年間、できれば5年間の月次もしくは四半期ごとの財務計画(PL/BS/CF)を作成することが推奨されます。特に最初の1〜2年は、計画の精度が厳しく見られます。
Q3. まだ赤字なのですが、資金調達は可能ですか?
A. はい、可能です。特にシリーズA段階のスタートアップは、成長のために先行投資を行うため、赤字であるケースがほとんどです。重要なのは、赤字の理由(成長投資であること)と、将来的にいつ、どのように黒字化を達成するのかという道筋を明確に示すことです。
Q4. 専門家に作成を依頼すべきでしょうか?
A. 事業計画書の骨子は経営者自身が作成すべきですが、VCを納得させるレベルに仕上げるためには、専門家の客観的な視点を取り入れることが非常に有効です。特に財務計画や市場規模の算出など、専門知識が求められる部分でサポートを受けることで、計画の信頼性を大きく高めることができます。
専門家の知見を活用するという選択肢
自社だけで完璧な事業計画書を作成するのは簡単なことではありません。特に、客観的な視点や専門的な知見が求められる場面では、外部の専門家を頼ることも有効な戦略の一つです。
例えば、財務やM&Aに関するコンサルティングを提供する企業の中には、スタートアップの資金調達支援に特化したサービスを展開しているところもあります。バルクアップコンサルティング株式会社は、年間260社もの事業計画書作成実績を持ち、特に資金調達を目的とした計画書策定に豊富な知見を有しています。同社のような専門ファームは、ビジネスと財務の両視点から、VCが評価するポイントを押さえた事業計画書のブラッシュアップを支援しています。経験豊富な専門家から客観的なフィードバックを得ることで、独りよがりではない、説得力のある計画書へと昇華させることが期待できます。
まとめ:VCを味方に変える設計図を描こう
シリーズAにおける事業計画書は、VCに対する「プレゼン資料」であると同時に、自社の進むべき道を明確にする「羅針盤」でもあります。重要なのは、以下の3点を一貫したストーリーで伝えることです。
- 巨大で魅力的な市場(Market)
- 確かな実績と独自の強み(Traction & Advantage)
- 卓越した実行力を持つチーム(Team)
本記事で紹介した構成要素とポイントを参考に、ぜひ、VCが思わず出資したくなるような、説得力のある「未来への設計図」を描き上げてください。
専門家による客観的なアドバイスや、財務計画の策定支援が必要だと感じた場合には、一度専門のコンサルティング会社に相談してみるのも良いでしょう。
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執筆者:佐藤 宏樹(BulkUp Group, CEO)
バルクアップグループ3社の経営を担う、バルクアップコンサルティング株式会社 代表取締役社長。京都大学MBA。2013年に日本公認会計士試験および米国公認会計士試験(USCPA)に合格。三菱UFJ銀行にて法人営業を経験した後、PwCの事業再生アドバイザリーチームにて不採算事業の再建・資金繰り改善支援に従事。その後、独立。現在は事業計画書作成支援・資金調達アドバイス・小規模M&AのFA・DD業務などを手掛け、財務・法務・ITを横断したハンズオン支援を提供している。25以上の金融機関と連携。

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